『九死に一生物語 シーラカンスと私を結ぶ二億のおかあさん』

関根 一昭/著                                                  平和文化/刊
定価1,500円(税別)

人類につながる「ヒトの直系」を追う物語

 タイトルの通り「九死に一生」を得ながら命のバトンがつながれて行く全20話の壮大な物語が、福島の女子高校生を主人公に描かれています。

 著者は地学を専門とする理科教員です。生徒の意見もとり入れながら書かれているので、等身大の高校生が描かれ、読みやすい本です。引き込まれ、あっという間に読み終えてしまいます。

 各章に危機の場面が「ファンタジア」として散りばめられています。正に、かけがえのない命の重みを実感できます。奇跡のような命のリレーがつながって、私たちがいることが分かります。井上ひさしさんの「きらめく星座」のセリフ「この宇宙に地球のような水の惑星があることは奇跡。小さな生命が数かぎりない試練を経て人間にまで至ったのも奇跡。そしてその人間の中にあなたがいるというのも奇跡」そのものを、生命の歴史として描いています。

 水の惑星を象徴するように、繰り返し「絹のような雨がやさしく降っていました」との表現があります。厳しい自然の反面、恵みをもたらす自然の中で、奇跡の連続で私たちがいることが分かります。

 根底には「弱さの思想」が流れています。命のリレーには自然淘汰や弱肉強食は必ずしもあてはまらない。イギリスの経済学者シューマッハーの 「スモール・イズ・ビューティフル」という名著があります。「スモール・スロー・シンプル」という弱さを受け入れ、それをポジティブな力(パワー)へと変える智慧がこの本には示されています。

 命の学びや人権学習に最適の本として薦めます。特に、命をないがしろにする政界や財界の人たちにこそ読んでほしい。

(評・埼玉県立豊岡高等学校教諭 江田 伸男)

(月刊MORGENarchive2016)

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